どうもー。まずはブログ拍手へのレスからー。
>読み返してみて、変身しちゃう子の氏名に遊び心を感じました。おお、そこまで気がつかれましたか(笑) 「仮面ライダー響鬼」から思いついたネタだったりするんですけどね。
さて、おかげさまでこのシリーズも4作目になりました。これも毎回コメントくださる皆様のおかげであります。
今回のネタは「煙々羅」。前回に比べると短いので、前後編でいきたいと思いますー。
変身:煙々羅
煙々羅
「もー……エリカっ。わがまま言わないでよぉ」
「…………」
江口エリカは答えず、ムスッと座り込んだままそっぽをむいた。
ここは桐壺神社の境内――夜店が出並び活気ある人々の声でにぎわう表からすこし離れ、拝殿の裏に回りこんだところである。今夜は毎年恒例、夏祭りの日なのであった。
夏休みに入ってからというもの、市内では女性の行方不明事件が頻々と発生している。そのため今年の夏祭りは中止にすべきという意見も出ていたが、市民からの根強い支持を受け、普段より厳重な警備の中、今年も決行されることとなったのである。
近所に住む江口ナツメとエリカの姉妹は、残業で遅くなる母から7時までに家に戻っておくことを条件に、お祭りに行くことを許されていた。母としては、この物騒なときに愛娘を外に行かせたくなかったのだが。姉妹による泣き落としツープラトン攻撃の成果であった。
ところが、今は7時14分。言いつけられた時間をとっくに過ぎてしまっている。
ナツメは早く帰らなければとそわそわしているが、妹のエリカは石のように座り込んで微動だにしない。腕ずくで連れ帰ろうとしても、今年学校に上がったばかりとは思えないほどの力で抵抗する。テコでも動かないとはまさにこのことだった。
(エリカはこうなったら聞かないもんなー……)
三つ上の姉であるナツメは、内心ため息をついた。エリカは基本的に姉思いのいい子なのだが、いちど意固地になりだすととてつもない頑固者に変貌してしまうのだ。
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エリカの不機嫌の原因は、夜店で買った風船をナツメが失くしてしまった事だった。わたあめを受け取るときに、うっかり手を離してしまったのだ。エリカお気に入りのアニメキャラがプリントされた風船はみるみるうちに夜空に吸い込まれ、消えてしまった。
しかも間の悪いことに、ちょうどそのわたあめを買ったところで所持金をほぼ使い切ってしまったのである。新しいのを買うにはお金が足りないし、時間はそろそろ6時50分をまわろうとしている。
いったん家にもどってお金を取ってきてもいいが、それでは7時には家に戻っていろという母の言いつけを守れない……。
「仕方ないから風船はあきらめよ? いいでしょ?」
どうやらこの一言がよくなかった。
エリカは姉の横暴に対して大いに憤慨し、ハンガーストライキならぬサイレントストライキによる抗議に出たのであった。
(仕方ないなァ……確かに今回はあたしが悪かったし……)
「分かったよ。いったん家帰ってから、またお姉ちゃんが買ってきてあげる。だからエリカは家で待ってて? ね?」
ついにナツメが折れた。あとで母に咎められるかもしれないが、いたしかたあるまい。
「…………」
一応納得したらしく、エリカは黙ってうなずいた。
※※※
母はまだ帰っていなかった。
「ママが帰ってくる前にいそいで戻ってくるから。待っててね」
それだけ言うと、ナツメはサンダルをペタペタやりながら駆けていった。
桐壺神社は子供の足でも5分ほどの距離。15分もすればナツメは風船を買ってきてくれるだろう。
とはいえ、今日のはちょっと悪かったな、とエリカはすこし後悔していた。せめて、ナツメが母に叱られそうになったらかばってあげよう。そう思ったとき―――ふいに、背後から話しかけられた。
「いいお姉さんね」
「きゃ……!?」
びっくりしたエリカが振り返ると、見知らぬ少女が立っていた。歳は姉と同じぐらいだろうか。しかし真っ黒い着物に銀髪という出で立ち、死人のように青白い肌と、やけにギラギラ光る目――ただの子供でないのは明らかだ。第一、この家にはいま自分しかいないはずなのだ。
(おばけ……!?)
エリカはあとじさる。
夏休み以降、頻発する若い女性の行方不明事件。このことについて、近所の子供たちの間ではある噂が囁かれていた。
――いなくなって女性達は、お化けに食べられてしまったのだと。
曰く、公園のトイレにカエル女が出る。曰く、夜一人で出歩いていると縫いぐるみお化けに連れて行かれる。曰く、鳥のお化けが子供をさらっていくのを見た。
「なぁに? そんなに怖がらなくてもいいのよ。私と少しお話しましょう?」
黒衣の少女は猫なで声で語りかけるが、エリカは答えない。
「…………」
「ふん……だんまりってわけ。生意気ね」
少女はキッ、と目を吊り上げた。誘いに乗ってこないエリカの態度が、たいそう気に障ったらしい。
「子供のくせに、私を無視しようっていうの? ほら、返事なさい。なんとか言ってみなさいよ!」
少女の威圧感に押され、エリカはじりじりと後退していく。ほどなくして、居間の隅へと追い詰められてしまった。エリカは恐怖のあまり目をつむり耳をふさぎ、涙をこらえてふるふると頭を振っている。
「くっ……これだからガキは……!」
幼子の反応に対し、黒衣の少女は目に見えて苛立っている。少女は暫くの間、しゃがみこんでしまったカナコを恐ろしい目つきで睨みつけていたが、ふと何かを思いついたような顔をした。
「そう……あなたがそういう態度をとるんなら仕方ないわ。あなたのお姉さんを連れて行ってしまいましょう」
はッ、とエリカが顔を上げる。
エリカが動揺したのをを確認し、少女は一転したり顔で微笑んだ。
「くすくすくす。仕方ないわよね、こんな悪い妹だもの。躾けのできないお姉さんにはお仕置きをしなくっちゃ……ね」
「………っ!」
ナツメが。大好きなナツメが居なくなってしまう。居なくなってしまうだけじゃない、ひょっとするとこの少女に食べられてしまうのかも……。
姉を失う恐怖がエリカ自身の身に迫った恐怖を押しのけ、彼女に口を開かせた。
「ま……待って!」
にいっと口元を吊り上げて笑う黒衣の少女。
「なぁに? 何か用? くすくすくす……!」
「ナ……ナツメお姉ちゃんを連れていかないでッ! お願いします!」
「へぇ? そうね……じゃあ訊くけど、あなたはお姉ちゃんのために何でもできる?」
エリカは一瞬、黒衣の少女の言葉に躊躇する。しかしそのためらいを振り切り、言った。
「できるよ。何でもできる!」
その答えを、少女は満足そうに受け取った。
「くすくす……よーくできました」
少女がパチンと指を鳴らすと同時に、エリカの身体が変化を始めた。
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「…………っきゃぁぁぁぁあああっ!!?」
凹凸のない幼児体型をしていたエリカの胸が、お尻が、太股が……いきなりグラマラスな成人女性をも凌駕するサイズへと膨れ上がったのだった。
顔や手足は子供のままで、セックスアピールのあるところだけが異常に発達してしまった身体。
変化についていけなくなった帯が勝手にほどけ、エリカの浴衣が床に落ちる。
「……っ、いやっ! いやぁぁっ! おっぱい!? 何これぇっ!?」
尻に感じるずしりとした重み、ゆさゆさと揺れる乳房。想像だにしなかった事態にパニックに陥っているエリカをさらなる変化が襲う。
「くすくす……どうしたの? 煙が出てるじゃないの」
「えっ……っ!?」
少女の言葉に、変わり果てた自分の身体を改めて見回す。見ると、肘の辺りからシュウシュウと音を立てて煙が吹き上がっている。それだけではない。まるで火をつけた線香のように、煙の出ている場所の皮膚が灰になって崩れてきているのだ………!
「いっ……いやああああああっ!!!」
その叫びが引き金となったかのように、エリカの全身から一気に煙が立ち上りはじめた。みるみるうちにエリカの身体が灰になっていく。
「お……お姉ちゃん! 助けてぇ! ナツメお姉ちゃぁぁん!!」
恐慌状態になるエリカ。姉のために自分の身を差し出した……そのことが分かっていながら、姉の名を叫ばずにはいられなかったのである。
振り乱した髪の毛がひとりでにざわざわと逆立ち、そのうえ紫色に変色してしまったことにも気づく余裕がなかった。
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そんなエリカの様子を横目で見ながら、少女は勝利の笑みを浮かべている。
「くすくす、煙々羅って……知るわけないか。くすくすくす……!」
- 2007/09/21(金) 15:59:22|
- シリーズ/怪談・黒童
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お久しぶりです。この妖怪シリーズの世界では、過去に妖怪にされた女性たちも同じ県?にいたんですね。妖怪にされた女性たちのその後(生活?や見た目の変化・心境)も見たいものです。しかしネタがぜんぜんわからないです。では、後編も楽しみに待っております。
- 2007/09/22(土) 05:40:48 |
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- ドロイド #-
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>現在楽識さん
あんまり知識とかは関係ないかも? です。まぁ、分かったところでどうということもないので、あまり深く考えすぎずに~。
>ドロイドさん
同じ県と言うか同じ市、ですね。もっとせまいです。
彼女達のその後については色々と思うところがなくもないので、ちょくちょく再登場するやもしれませぬ。
- 2007/09/23(日) 16:54:17 |
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